・*:..。o○君の歌声○o。..:*・

傲慢と無垢故の自意識過剰、 それもまた愛すべき 暴君 、

46.窓越し

「そろそろだな。」

君がぽつりと呟いた。

「そだね。」

時計を見上げると、電車がくる時間になっていた。

君もあたしも俯いたまま。

-列車が参ります-


駅員の放送にあたしたちは、荷物を持って改札へ向かう。


あたしは今日旅立つ。
君のいない街へ。


将来の為、仕方ないこと。
そうあたしは言い聞かせた。


あたしは切符を、君は入場券を改札に通した。



目の前に停まる列車。

「気つけてな。」

君から荷物を手渡される。

「そっちこそ。」


元気でね。

無理に笑顔を作ると、君もぎこちなく笑った。


「早く乗らないと置いていかれるぞ。」

君が背中を押した。

「うん。」


本当のことは言えなかった。
本当は行きたくないということ。
君と一緒にいたいということ。

君が好きだということ。


「見送りありがとう。」


そう言ってあたしは列車に乗り込んだ。


窓からはホームに立つ君。

固く閉じられた隔たりは君の声を奪っていた。


"ついたられんらくしろ。"

君の唇の動きを一生懸命読み取る。

もう、逢えなくなるかもしれない。
君の最後の言葉まで、見落とさないように慎重に。


"さみしくなったらかえってこい。"


"え?"


君の意外な言葉に驚いた。


しかし、二人の間を発車のベルが引き裂いた。



"まってる。"


走り出した電車。


"おれは おまえが"





あたしは涙を堪えきれなかった。



どうしてもっと早く伝えられなかったんだろう。



"すきだ"



あたしも君が大好きだったのに。


46.窓越し


(また逢えるその日を、あたしは信じていいですか?)



=遊兎=