部屋に隠したメモ帳の行方
口に出していいんだって思ったら、
止められなくなる。
触れていいと分かったら、
触れずにはいられなくなる。
傍にいて、
何度だって確かめてしまう。
あなたがいること。
わたしがいること。
*****
お仕事でトラブル。
何度もなるお電話に、対応せねばならなくて
ベッドに転がったまま、それを眺めていた。
耳心地のいい声が、イヤホン越しでなく
実際に聞こえていて、
嬉しそうな瞳が私を捕らえていて。
やっと、実感した頃に、現実に戻る時間。
ギリギリまで居られたら、もう少し心細くなかったんだろうけれど
改札の中まで入って、
新幹線の番線まで聞いてくれて、
ひとりで飲食店に入れない私のために
席をとって、座らせてくれて、飲み物まで買ってきてくれて。
至れり尽くせり。
パニックを起こすとは思ってたけれど
ここまでテンパるとは思わなかったから、
上擦った「大丈夫だよ」は逆効果だったみたいで。
お仕事の呼び出しは、行かなきゃいけないから
凄く心配そうな顔をして、手を振っていた。
笑顔で見送ったつもりだけれど、きっと不安そうだったんだろうな。
次に来たときはもう少し落ち着いていられるかな、
慣れるのは時間がかかるよ、と言ってくれたけれど
思考回路が停止して動けなくなるほどではいけないって思ってる。
*****
夢はもうすぐ醒める。
すぐに現実に変わっていく。
それでも、きっと大丈夫だ。
私はちゃんと歩けるようになった。
食事をして、眠って、話して。
当然のことを当然のようにできたんだ。
きっと、現実でも大丈夫だ、
生きていける、また。
欠陥だらけの私でも、まだもう少し頑張るから
指切りをしなくてもいい約束を
ずっとずっとつないでいて。
=遊兎=